「境界の紫」登場人物紹介
奪われし者。
暗黒に佇みし、かの人の手には色無き仇花。
去り逝く花弁の行き過ぎし後に、たった独りで虚無を掴む。
そして、何もかも無くし、何もかも亡くした彼女に唯一つだけ残るのは、
欲望と呼べるほどですらないちっぽけな、夢。
酔夢が駆り立てる、斬り開く、流浪せぬ永久の安寧は、
遠く、まだ遠く。
「――帰ろうとしなければ帰れないのに、どうすればいいの」
千年の女王。
薄闇と静寂の世界を無限に埋め尽くす、満開の桜の下、人殺しは哂う。
「私はただの死神」
そう嘯く彼女の足元には、千の、万の、志半ばにして倒れたもののふの骸。
それは惨殺なりしか、否、妖艶なる色の光がその魂を導くその先には、
奈落の如き楽園の幽界。
また千年後、嘘の桜が満開となる――。
「――この先に行けばいいのよ、私と」
妖異を為し、怪異と成り、王を化かして憂国を生す、人間の仇敵。
幾度と無く蘇り、永遠とも思えるその不穏なる邪影は、しかし世界よりあっけなく姿を消す。
其は人を、人は其を不倶戴天の敵とはせずに、その戦いの系譜は儚く忘却の果てに追いやられる。
それは死せず、まんじりとせず、再びその化生を垣間見せんと、ただ今は待つ。
「――いつだって殺せたし、いつだって殺そうと思ってた」
それは人にも非ず、妖にも非ず。
身一つ刃と成し、信念のままに振るい、斬る。
我無く、亡我無く、人の為の刀として在りたいと願う、謹厳なまでの一閃はあらゆる有情を看破する。
だが、剣士は知らぬ。
己の身を、心を包み、終わり無く溢れ出るその混沌を。
鬱屈した破壊と闇の奔流こそ剣の道であると。
修羅、また修羅。悪鬼羅刹と変わり無い白銀。
「――刀を、返してください」